深田 上 免田 岡原 須恵

ヨケマン談義11. 昔懐かしふるさとの味

11-14. かぶと煮

 人吉のご出身で、現在、岐阜県可児市にお住まいの金子さんが「郷土料理とは言えないかも知れないけど、私にとってはこれです」と言って送ってくださったのが鰤(ぶり)の頭の煮付け、「かぶと煮」(図1)である。「かぶと煮」とは、魚の頭を兜に見立て、煮付けたもので、鯛(たい)がよく用いられるが、金子さんの場合は鰤(ぶり)だそうである。

 「父親が大の魚好きで、干物(ひもの)しか手に入らない時は、とても不機嫌でした。その影響もあってか私も大好きで、砂糖、醤油、味醂、ネギ、ショウガなどで煮たカブト、特に、目のまわりのトロッとした処(コラーゲンかしら)は何とも言えないくらい美味で父と五人の姉妹で、末っ子の私が先に争って食べていました。両親が元気な頃は、帰省のたびに調理してくれました。「ブエンが食べたい」というのが父親の口癖でした。私は今でも、スーパーに買い物に行くと、鮮魚は一本物を購入し、自分で捌(さば)いてカブトも一緒に煮付けます」

かぶと煮
図1. かぶと煮の例

 「ブエン」という懐かしい言葉がでてきたので補足する。ブエンとは、「無塩」と書く。保存用の塩を使わない生(なま)であることを意味し、新鮮で、鮮度の高い魚介類のことである。山間の流通不便な山間地の人吉球磨地方にはなかなか魚が生の状態で売られることはなく、魚の多くは干物であり、くじらは塩辛い塩クジラであった。みんな「ブエン」が欲しかった、食べたかった時代であり、お父さんの口癖は理解できる。この金子さんは、先に紹介した「煮しめ」についてもお便りをいただいた方である。

↑ 戻る 

談義11-13へ | 目次-2 | 談義11-15へ